黒百合

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 読書メーターでなんだか面白そうだったので税金レンタルまたの名を図書館で借りる、「黒百合 / 多島斗志之
 食わず嫌いのわたくしですが、最近聞いたことない作家でも面白そうだったら積極的に読んでいます。なぜなら、自分で「おもしろそうだなぁ」と思う小説はなぜか濃くて重くて読みづらいものが多いから。そうでなかったらラノベだから。
 正直いままで名前も聞いたことない作家だけれど、これはやられた。ジャンル不明だけどやられた。粗筋はこうだ。
 舞台は1952年の夏、六甲山。語り手「寺元進」は14歳の夏に、父の友人である「浅木謙太郎」に招かれ六甲の別荘で夏休みを過ごすことになった。そこに同い年である「浅木一彦」がおり、生涯の友人となる彼と、ある日湖で出会った同じく六甲に別荘を持つ倉沢家の娘「倉沢香」と出会い一夏を過ごす。徐々に香に惹かれていく一彦と進。昭和の古臭いボーイ・ミーツ・ガール。果たして香は一彦と進のどっちに気があるの???この香がまた悪い女と言うか気を持たせる奴というか、読み手としては少し情けなく押しの弱い進を応援するんだけれど、口が達者で堂々としている一彦がこれまた強力なライバルで。でも香の態度はどっちつかずというかなんとういか、これ電撃文庫で可愛いイラストつけて作者が竹宮ゆゆこだったらアニメ化するんじゃね??というぐらいドギマギする物語。
 だと思ったら大間違い。語り手「寺元進」は基本的に当時の日記元に回想するスタンスで、その合間に別の物語が展開される。その物語とは、彼らの両親の若かりし頃の物語であり、読めば当然気づくがそれは複雑な形で現在の少年、少女たちに関わっきている、ようである。ようである、とういうのは、彼ら彼女らには直接は関係なく、また知る由もない。読み手である私達だけが最後に、「おお、そういうことなのか」と気付くのだ。つまりこれってミステリなんだね。
 でもね、これやっぱり少年少女の出会いの物語だよ。だって物語に飲まれたもの。フラれるのは悲しいし、こっちに有利だと思ったときの優越感なんか最高だし、なんだか思いつめて告白しちゃう人の胸の苦しさもわかっちゃったし。ミステリの出来についてはネタがネタだけに二極化するだろうけどそんなのどうだっていいんだよ。彼らの出会いに心揺さぶられるか揺さぶられないかだ。