戦略拠点32098楽園 28冊目

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

「ねぇ、ガダルバ。流れ星ってなにでできてるんだろうね」

1000年以上にもわたり、汎銀河同盟と人類連合の戦いが繰り広げられている世界。人類連合側が頑なに死守する謎の惑星「拠点32098」そこに汎銀河同盟の兵士ヴァロワが降下に成功する。彼はそこで、人間の少女マリアと人類連合の強化兵士ガダルバに出会う。彼女たちの他には動物も昆虫もおらず、地表には墓標のように数多の廃宇宙戦艦が突き立っていた。ヴァロワはマリア達二人と共に暮らしながら、調査を開始する。この惑星と人間の少女マリアに隠された秘密とは?

とまぁ、こう書くとかなり誤解を招きかねない作品。本作品はこの二人の兵士(彼らは脳の一部を除いてサイボーグ化された、人ではない者達)が、人間の少女マリアとのふれあいを通して、自らの生きる道を探していく作品である。上記のSFチックな設定はあまり必要ない。
元は人間として生まれ、自らをサイボーグ化したヴァロワ。彼にはまだ感情が残っていた。彼自身も、自分には人間らしい何かがあると、「自分」というものが存在すると思っていた。しかし、しだいにその思いは揺らいでいく。一方ガダルバは、はじめから戦闘用強化兵として生み出された存在で、感情というものを知らない。そんな二人が、己の存在を自らに問い、相手に問い、時に対立し、やがてはそれぞれがそれぞれの生きる道を決断していく。
この物語には特殊能力対決も恋愛要素もない(幼女はいるけどね!!)。登場人物も3人だけ。第6回角川スニーカー大賞金賞受賞作品だが、たぶん売れなかっただろう。現に本書は絶版で、僕がやっとの思いで手に入れた物も初版だ。重版されたのかすら怪しい。いままで読んできたライトノベルと比べても、異色の作品だと思う。せっかく幼女キャラいるのにいまいち弱いし、SF設定もあんま意味ないし。あとがきによれば後付設定も多々ある模様。もう一回いうけど、読み終わった瞬間、これ絶対売れねーよ!って確実に思える。しかしだからこそ出会えてよかったと思える、淡々とした静謐な空気漂う良作。
ただこの作者、文章はうまいと思うんだけど、なぜか読みづらい。なんかこっちの頭にあるイメージと文章とが唐突にずれるというか、ブチッとノイズが走ったみたいに途切れる箇所が多々あり。なんかの特殊能力だろうか。呪いか。ちなみに入手困難な本らしいので(現に存在を知ってから見つけるまで2年以上かかった)たまたま立ち寄ったブックオフで見つけたときは「ぁぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」ってなった。ラッキー。