戻り川心中 31冊目

 それぞれの物語に「花」を印象的に使い、男と女の悲恋を書いた「花葬シリーズ」と銘打たれた短編集。
 「ミステリーと恋愛の結合」を目指したこの作品群は、そのままで十分に美しい、男女の悲劇を鮮やかに書きだす。しかし、いったんはそうして幕を閉じたかのように見えた物語が、本人による独白や、第三者による探求等により全く違った物語へと姿を変える。この、ミステリの手法を用いたどんでん返しがとても鮮やかで痺れる。
 ただ、この「ミステリーと恋愛」のバランスが作品によってまちまちで好みが分かれるかと。個人的には三作品目「桔梗の宿」が一番好みなのだが、ミステリとしては表題作「戻り川心中」が一番のできかとも思う。この作品群は執筆順に並んでいるのだが、後半に行くにしたがってミステリ要素が少々強引なような気もする。あとがきで引用されている作者自身の言葉にもあるように、まだ手探りしながらの執筆だったのかなと。
 この作家の事は全く知らず、当然作品を読んだのも本書がはじめてなのだが、その筆力は相当なものだと感じたし、この「ミステリーと恋愛の結合」というコンセプトも好みなので他の作品もちょいと読んでみようかと。