国境の少女 32冊目

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 舞台はクリスマスを控えたアイルランド。その国を南北に分断する国境地帯で一人の少女の死体が発見される。その事件を南側の刑事「ヴェネディクト・デブリン」が追う警察小説。やっと出会えた警察小説。すばらしい。一昨年から抱いていた「警察小説が読みたい!」という僕の思いを満たしてくれた良作。ただ、少々ハードボイルド風というか、血と暴力の臭いがするノワール風というか、著者が<イアン・ランキンの「黒と青」の熱烈な読者で、(略)>という解説にも「ああなるほど」と納得のいく作風。ところどころ黒いです。
 また、本書には南北に広がるアイルランドの現状が色濃く反映されている。被害者の少女は国境地帯に捨てられていたわけだが、そこでは南北両方の刑事が集まり、どちらの管轄とするかが話し合われる。他にも「北へ逃げる」といった表現や「漂泊民(トラベラー)」と呼ばれる人々が登場したり「IRA」Irish Republican Armyなどという単語も出てくる。ただ、それはあくまでも登場人物たちにとっての日常であって、多少は物語に影響はしてくるものの、特殊な舞台装置としてアイルランドの現状が利用されるわけではない。外国人のぼくからみれば、なにかの複線になってくるのかと期待してしまうけれど。
 例えるなら、環状線が渋滞で…とか、新青梅街道が渋滞で…とか、通勤ラッシュ時の有楽町線は絶対遅延するとか、中央線が人身事故で止まったとか、強風で京葉線が止まったとか、大雨で秩父線が(略とかそいうこと、ってろくな例えが出てこない。まぁそのあたりぼくは勘違いして読み始めてしまったので反省。いや、裏表紙のあらすじ読むと勘違いするって。多分。
 しかし、今回最大の不覚は人物名を間違えていたこと。しかもよりによって犯人。「えーー!あんな人物が!意外!」って、そりゃ意外すぎるっつーの。作者もびっくりだわ。