弁頭屋 30冊目

弁頭屋

弁頭屋

「私はこの作品が『毒』であるのか『純情』であるのか、最後まで判断できなかった」*1

 前作「姉飼」では、ホラー小説として血と臓物の臭いをさせながらも、読み終えた後は澄み切った秋の空のように清々しい切なさに包まれた、紛れもない超純愛小説だと思ったのだが。
 今作「弁頭屋」は、生首の頭をぱかっと開けたら中にご飯が。弁当箱ではなく弁頭箱の「弁頭屋」、高槻先生が生徒を食べていた。の一文から始まる「赤ヒ月」、妻が妊娠した。相手はIH炊飯ジャー『炊き出し』「カデンツァ」、幻想小説風味の「壊れた少女を拾ったので」、世界がピンク色のダニに覆われてしまう「桃色遊戯」の5編からなる短編集。表題作「弁頭屋」と「赤ヒ月」は何の説明もないホラー設定を軸としつつ、語られるのは「毒」ではなく「愛」について。のはずなのだけど、「弁頭屋」はちょっとわけわからなさに笑ってしまう。だって駄洒落じゃんタイトル。おなじく「カデンツァ」も駄洒落だしなー。なんというか、「姉飼」から受けた印象で、すこし真剣に挑みすぎたか。おかげで肩透かしをくらった気分になってしまった。ただ、期待していたのとは違ったというだけで、短編集としての出来は「姉飼」より上だとは思う。

*1:「姉飼」が第10回日本ホラー小説大賞を受賞したときの荒又宏大先生の選評