「ブルー・ワールド」/ロバート・R・マキャモン 03冊目

ブルー・ワールド (文春文庫)

ブルー・ワールド (文春文庫)

マキャモン唯一の短編集。

スズメバチの夏
 スズメバチを操る少年が出てくるお話。直接的な恐怖よりも、「なにか、おかしい」と恐怖の対象に気づくまでの緊張感というか、拭えない違和感みたいなものを表現するのがうまいなぁと。

メーキャップ
 ホラーっぽいホラー何の変哲もないホラー古臭いホラー。おお。

死の都
 突然世界崩壊系。整備された廃墟のような、人っ子一人いない都市って萌えるよね。イメージ的にはメガテンなんだけど。豊洲有明やモノレールから見える羽田の方の倉庫街なんかもも萌える。ラストはデジ子?ニョ

ミミズ小隊
 ベトナム戦争後遺症ホラーというジャンルがあるのか?解説に書いてあったわけだが。ベトナム戦争に行って変なガス攻撃食らってその後遺症で妙な力がとかそんなん。オリエンタルマジックみたいなもん?ベトナムってアメリカではこういうネタにされるものなのか。映像化されているようで、それは非常に見てみたい。


 針がー目にー、というシーンを頭の可笑しな人の視点から詩的に綴ったもの。きもちわるい。

キイスケのカゴ
 囚人であり魔術師でもある爺さんが、使い魔の鳥が見てきた土地の風景を、他の囚人達に語って聞かせる。囚人達は毎日爺さんの話を楽しみにして可愛らしい。

アイ・スクリーム・マン
 これも世界崩壊系のお話か。「死の都」とは違って閉塞された空間で一家の主人が…。なんか変だなと思っていたらそういうことですか。良質のショートショート

そいつがドアをノックする
 田舎ホラー。新しく越してきた一家の主人が、ハローウィンの晩に町の有力者の家に呼び出される。そこには町中の男達が集まっており、そこでこの町に伝わる忌まわしい風習を知らされる。ってな感じでナイスなホラー作品に仕上がっております。

チコ
 もう少し読みたい。糞熱くてゴキブリがいっぱいの部屋で暴力亭主のグチと女房の悲嘆と奇形障害児の…おおうなんだそのラストは。

夜はグリーンファルコンを呼ぶ
 昔ヒーローだった爺さんが、当時の被り物をして、隣人のちょいと可愛い売春婦を殺した殺人鬼を追う。現在の爺さんは昔の面影はなく、しょぼくれて、昔のアルバムを眺めて過ごす日々。そんな生活を送るより、ここで死んでもいいとやけくそで部屋を飛び出す。
それでも爺さんはやっぱり爺さんで、指を指され笑われ暴走族に絡まれ小突かれたりするわけだが、それでも人生捨てたヤケクソ&コスプレパワーは恐ろしいもんで情けないながらも変な仲間が出来たりして徐々に犯人に迫っていく。その途中での「見張り男」との出会いのシーンが素晴らしい。また、パブで襲い掛かってくる族の兄ちゃんに対してとっさにかける台詞なんて、爆笑ものだがそれでもかっこいい!やっぱ爺さんヒーローだったんだね。これは名作。

赤い家
 内装も外装も真っ赤な家に住む隣人は実は…。という話のようだが、赤が嫌いな主人公の親父のストレスで壊れていく様に同調してしまいこちらまで胃が引き絞られるような思いに。理不尽な暴力、直接的でないにせよ、って嫌だねぇ。

なにかが通り過ぎていった
 世界崩壊終末系SFホラー?今まで生活を支えていた地球の法則が崩れ、ガソリンで喉を潤し水は毒薬に。突発的に起こる現象である日突然部屋の一室が真空に。重力波で家はペシャンコに。設定だけでわくわくさせられる。これももうちょっと長く読んでいたかった。

ブルー・ワールド
 表題作「ブルー・ワールド」サンフランシスコのポルノ街のすぐ近くにあるセント・フランシス教会。そこに仕える神父ジョン・ランカスターがポルノ女優デブラ・ロックスに恋をするお話。今までに経験したことがないほどの性の衝動に耐え切れず、「神よ」とかいいながら神父ジョン・ランカスターはデブラ・ロックスに近づいていく。
 序盤の神父がエロ衝動と戦い、敗れいく様が笑える。このあたり、神父の緊張感や鼓動の高まりがよく表されていて、なかなかに読み応えあり。ハラハラさせられる。しかし、この神父がただのヘタレかと思いきや実は結構しっかりした人物で、最後の一線は死守する。おまけにデブラと触れ合ううちに、彼女のような人たちの魂をこそ救いたいと思うようになる。
 ラストはジョン・ランカスター神父を通して、セント・フランシス教会とポルノ街の関係が少し変わった様子をかく。非常に清清しい。マキャモンはこういう正義感あふれるお話が好きなのかね。そういや一応連続殺人犯が出てきて、バトルしたりもしてたな。