ハローサマー、グッドバイ 08冊目

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 ザル一杯の小魚。
 生しらすだったら醤油とすだちをちょいと搾って白米と一緒にかきこめば最高に旨いだろうザル一杯のだけれどもメダカ。
 大量に繁殖した浮き草で一ミリたりとも水面の見えない用水路に虫取り網を、ひと夏大事に使い込んだが蝉にはいい加減飽きたのでもうどうでもいいやと思いながら、突っ込んでそのまま炎天下の中のアスファルトの上の陽炎の中を無理やり叩き起こした二日酔いの大叔父をつれて歩くとあっさりピチピチピチピチピチピチ昼過ぎにはバケツの中で全部死んだ。

 多分、こう思って読みたいと思い実際に読み始めたと思う。
 SF。世界設定がSF。幼い男女が、多分小中学生ぐらいが出会う。夏。家族と休暇で訪れた町で、男の子と女の子が出会って、恋に落ちる。きっとその過程の全てが俺を悶え殺すのだろう。そして、のっぴきらない事情で、それには多分SF設定が絡んできて、二人の仲は引き裂かれ、それでも最後には、これもSF設定が絡んでどうにかこうにかうまくいくのだろう。そしてその過程全ても、俺を悶え殺すに違いない。そうでなければ昨年こんなにいたるところで絶賛されているはずがない。もう予防線を張って半信半疑読み始めるのはやめよう。期待しよう。めっちゃ期待しよう。何を隠そう少女小説とか少女漫画と好きなんだもんね。イエスタデイを歌ってのハルちゃんが少女漫画は凄いなぁ恋愛の全てが詰まっているとかなんとか、たしかこんなことを言っていた。俺はそういう青臭いのが堪らなく好きなのだ。多分「ハローサマー、グッドバイ」はこんな俺を癒し殺してくれる。

 情景は浮かばない。夏休みに港町に、両親の実家でもないのに行くのが良く分からないしよく読んでいないからなのかもしれないけれど大して魅力的でもないSF設定は変な動物「ロリン」がとてつもなくキモい想像しかできないけれど、ブラウンアイズ、ヒロインのブラウンアイズ、名前は忘れた主人公の胸の高鳴り、鼓動、「胸の鼓動に蹴飛ばされ転がり出た愛の言葉」別に言葉は要らなくて、あんたの胸の鼓動だけでブラウンアイズ、君の魅力は十二分に伝わって、ちょっと好きになったりもしてでも主人公に自分を投影して読むようなギャルゲー的姿勢になるわけではなくブラウンアイズを攻略するのは名前を忘れた主人公で自分はただ二人を見つめているだけで満足で。だからといってピュアピュアで淡くてあわあわで、なんていうのは見せ掛けで、いや見せかけようとなんてしていなくて勝手にこちらが勘違いしておいおい俺を殺すきかよなんて思っていただけなのかもしれないけれど、それでも全く問題はない。一つもない。最後まで、心の底からドキドキしたしジタバタしたし同情したしスカッとしたしちょっと勃起したしラストではきちんと感動した。それで満足した。そうさせる何かがこの二人にはあった。読んだ後感想がかけなくて大好きな曲を妄想では完璧に、感動的に、時には自ら涙を流しながら演奏できるのだけれど実際に鍵盤を譜面どおりなぞる事すら出来ずそれじゃ誰にもこの俺の、俺だったらこう弾くこう伝えるっていうのが出せなくてじゃあいいよ鼻歌で歌って伝えてやるよってな感じで現在に至る。読んだら幸せになれた。