「ぼくと、ぼくらの夏」 10冊目
- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/05/10
- メディア: 文庫
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調布の深大寺近くのお屋敷に、刑事の父と二人暮らしの主人公。毎日食事を作り、家の掃除をし、女性によくモテ、タバコを吸い、諦観的で「感情がないような」彼は洒落てひねくれた言い回しで周囲の人たちをあしらう。
府中のヤクザの娘、ヒロイン酒井麻子は当然美人で、父親の職業故周囲に気を使い人を遠ざけていた。たがいざ二人で行動を共にするとヒステリックで良く泣く、そのくせ主人公への好意や嫉妬は隠し切れないまさにツンデレ。
この二人を軸に、妻に逃げられたお屋敷の跡継ぎでやる気があるんだかないんだかわからない刑事の父。美人の担任。女生徒に人気のエロそうな体育教師、建設会社を持ち都議会議員の学園理知長と、わかりやすいキャラを、十分すぎるぐらいデデンと贅沢に配置。その他脇役も光ってます。
青春ミステリー。とても好きなジャンルです。20年前の作品ということもあって、時代を感じさせる設定に使い古されたキャラクターがこれでもかと登場するが鮮度はピチピチ、色あせない。
はじめは岩沢則子になんの興味もなかった主人公だが、調査を進めることによって浮かび上がってきた「周囲の評価とは違う」岩崎則子を知ることによって、「人には人の人生がある」という当たり前のことに気づいていく。それはほかの登場人物にもいえることで、この短い320ページの中で、主人公が知らなかった彼らの人生が次々と見えてくるところはすばらしい。世界がどんどん広くなっていくようで、閉じこもっていれば安心だろうけど、広い世界。それは表紙のイメージにぴったりだった。
解説でヒロイン酒井麻子がツンデレキャラであるということについて言及されていたのには笑った。ま、誰が読んでそう思うよなぁとw
嫉妬しているなんて、死んでも認めたくない。「帰らないで」と素直に告げるには、強すぎる自意識が邪魔をする。(中略)意地と甘えとプライドのせいで口は動かないのに、体が勝手に動く。
なんて可愛らしい。
そう、なんて可愛らしい!