バッテリー

 小学校を卒業し、この春からは母の実家である山間の村で家族そろって暮らすことになった主人公「原田巧」は父の運転する車の助手席から、奇妙な風景を目撃する。三月の終わりのこの時期に山の斜面に積もる雪。しかし、その反対の谷側には新緑が芽吹き圧倒的な春が訪れている。この奇妙な風景は「おろち峠」と言われるこの場所でしか見られないものだと言う。弟の「青波」が車を降り雪遊びにはしゃいでいる姿をぼんやりと眺めていると、いつの間にか隣へ並びタバコをふかしていた父が、ふと語りだす。それは、この峠で頻発していた死亡事故のこと。そして、軽トラごと谷底へと墜落し命を落とした、父の両親、つまりは「巧」の祖父母についての話だった。村での生活で、徐々に元気になっていく病弱だった弟。祖父との言い争いが絶えない母。体を壊した父。既に亡くなっていた祖母と、枯れた紫陽花。この村で主人公巧を待ち受けるものとは。

バッテリー (角川文庫)

バッテリー (角川文庫)

 ホラーっぽくしてみたが上手くいかなかった。ホラーじゃねえのかよこのチンカス!
 いやー夏だしね、甲子園大会の予選も始まったことだしちょうどいいと思って。
 というわけで前から気になってたので図書館でちょちょいと借りてきた。

 意外と少女小説好きなんだけど、少年小説、そんなものあるのか知らんが、もいいね。まぁ大人が書いているからだろうか、登場する少年達、ここでは中学入学前の12歳と10歳ぐらいの弟連中、はこの時期特有の両親や大人に対する不満やらなんやらの悩みを抱えつつも、みんな大人で思考や感情が整理されていてアウトプットも小気味よく親子での言い合いや兄弟喧嘩も台本通りの山あり落ちあり意味ありで気持ちがいい。ああー心が洗われる。
 どうでもいいが主人公原田巧の弟「青波」は「セイハ」と読むようなのだが、「アオバ」と読んでしまい女の子だと勘違いする。その後すぐに間違いに気がつくがめんどくさいので、
「病弱ショートカットで感性豊か、兄を慕い、家族みんなから好かれ、崩壊しかけの家庭を繋ぎ止める唯一の存在的なキャラだと思っていたら作中ではなんか野球をやりたいと言い出し母親や兄とも言い合いをし力強く育っていつのまにやらスポーティ少女に変身」
 な妹キャラとうことで、そのまま脳内変換して読む。
 萌度がアップするから一度試してみるといい。

 一巻で完結していると思ったらまだ誰も死なないどころか行方不明者や怪しげなうめき声、不気味な館や無口なメイドに正体不明の怪物も出てこないので続きを読まなくちゃ。あれだろ、筋力アップリストバンドで軟式球をブン投げて怪物を倒したり、金属バット型麻酔銃で犯人を昏睡状態にしてバラバラにして普段ちょっと内気な女子マネージャーが血みどろで臓器を弄びながら、「ホカホカしててキモチイイ」とか言ったり、顔に張り付いて血を吸うグローブ(通称:八岐大蛇)とかでてきたりすんだよね。ワクワク。

虫の音も届かぬほどに冷え切った室内で回る回るプロペラが描くは果たして送る風程に乾く口内に感じる読書という幸せ。ほら、読めよ。ギンギンに冷えた羽毛布団を引っかぶり読むは生きててよかった、夏といえばホラーだろ?

 というわけで、あちーな夏だな、ホラーが読みたいな!な?
 普段自虐的で就職活動中にニートなオイラは面接に行くと2週間は心のケアをしないと-ケアとは現実を忘れて酒を煽り、求人サイトを見ることで「俺って超努力してね?これマジで正社員なんかになった日にはまじ優秀すぎて経営者ビックリじゃね?ふあはははははあ!俺天才!」ってな妄想に浸たることなわけだけれど-次の面接に進めないそんなchauenだけど-chauenってなに?ってよく脳内のファンや脳内のお友達や脳内のマネージャーに聞かれるけど、実はモロッコにある建物がすげー白い街の名前なんだ。って自慢げに語るけどたまたまユーザー登録時に見かけたからテキトウに付けただけなんだとは口が裂けてもいえないけど-これだけは自信を持って、世界中の人間の多分控えめに言っても3分の1ぐらいは同意してくれると思うんだ。あまりに文章が長くなりすぎて、「え?何が?」ってなりそうだからもう一回言うと、
 「夏はホラーが読みたくなるよな?な!?」
 な?

 毎年言ってるんだこれが。「暑いなー!こうも暑いと、クーラーをガンガンに聞かせた部屋で昼間っからホラー小説と洒落込みたいね!ね!?」って。

 でも自分の読書記録(2003年から)を見てみると、そんなこと言ってる割には大して読んでないんだなこれが。もう死んだほうがいいね。一生ニートでいいよ。馬鹿っ。年収130万っ。

 でもでも前向きに話を進めるとこうだ。

 なんだか「夏」を感じて、ホラーが読みたいなー!と思い始めるのが大体6月半ば頃からだろうか。で、こういう風に自分が「夏だなー」と思ってるのってどれくらいまでかな?と改めて考えてみると、9月一杯ぐらいまで?となる。夏って結構長いんだな。そりゃ四季って言うぐらいだから4分の1は夏でいいんだろうけど、4ヶ月も夏だとなんかあんま貴重じゃないような気がしてくる。多分飽きるんだろう。季節の変わり目って結構ワクワクするタイプなのだが、つまりはワクワクするのは最初だけですぐ飽きる、と。だから「夏だ!ホラーだ!」っていう気分はそんなに長続きしないんじゃないかなーと思ったのだけど、よくよく思い返してみると、9月序盤ぐらいまでは「夏ホラーブーム(精神的な)」は続いているようだ。あくまで個人的な気分の問題なのでこれ以上グダグダ言ってもしょうがないから誰か夏に読むホラー小説、もうこの際ホラーじゃなくてもいいから夏に読むといい小説、夏が舞台な、夏が楽しくなる小説とかいうテーマで居酒屋で俺に延々と説法してくれる人いないかな。

 と、まぁここまでが7/8に書いたもので、今は7/21です。

 ちゅーわけで仕切りなおして今まで読んだ夏だぜ!ホラーだぜ!ホラーじゃなくてもいいぜ!な小説をまとめてみろはいわかりました。

条件
1、夏に読んだ
2、夏って感じな小説
3、出来ればホラー

2003
「夏と花火と私の死体」 乙一 
「夏の庭」 湯本香樹実
「悪霊のすむ家 上・下」 小野不由美


2004
「少女怪談」 アンソロジー
「怪談・奇談」 ラフカディオ・ハーン
「Missing 1 神隠しの物語」 甲田学人
「過ぎる17の春」 小野不由美
「HPラヴクラフト全集 1」 HPラヴクラフト
ぼっけえ、きょうてえ岩井志麻子


2005
「Missing 12 神降ろしの物語 中」 甲田学人
「Missing 13 神降ろしの物語 完」 甲田学人
「東京伝説」 平山夢明
六番目の小夜子恩田陸
アクアリウムの夜」 稲生平太郎
「墓地を見おろす家」 小池真理子


2006
なし!!


2007
「球形の季節」 恩田陸


2008
「弁頭屋」 遠藤徹

口ほどにも無さすぎてあきれた。

夏の予選 新人入門

さて、今日我が家に新人が入った。生きるか死ぬかは君しだい。いや、俺の気分しだいか。

一人目 ベコニアタイガー

毒々しくてしかもちょっぴり毛が生えているという厭らしい奴。たがこ洒落た感じに飾り付けられておりちょっぴり高額だったのが残念なところ。ピンボケした写真からもお分かりかと思うが、この妙な形のガラス鉢といいお洒落した分高いくせにそいつがまたすげーダサいという逆効果。しかしこれしかなかったので買ってしまった。早く植え替えてあげたい。
アップ

二人目 斑入りガジュマル

これガジュマルには見えないのだが…。これで根が陸上に出ててウネウネしていたらもっとステキだったのに。元は下のダイギンリュウと同じように小鉢で売られていたものをハイドロ化。鉢は昔ドイトで購入したものを使い、底にミリオンAを敷き、我が家に残っているハイドロボールを全部ぶっこむが足りず、その上にネオコール(小粒、ホワイト)を足して出来上がり。黒い鉢に白いネオコールがあっていて満足の出来。透明でない鉢でハイドロするのは初めてなので多少不安ではあるが。水位計買ってきたほうがいいんかな。

三人目 ダイギンリュウ

クネクネ曲がった茎に優しげな黄緑色の葉っぱが気に入って購入。夏場によく日光を浴びると、秋口に紅葉するらしい。パキラの葉が濃い緑に力強く育ってしまう窓辺に置くことにする。秋が楽しみである。こいつはまだ購入したときの小鉢の状態なので早く植え替えてあげたいがもう鉢がない…どうしたものか。

今回はなんだか上手く写真が撮れず残念だったので、昔撮った適当な植物の写真でも上げて気を紛らわせることにする。

なんか葉っぱ

千鳥ヶ淵の夜桜

日本の呪い 「闇の心性」が生み出す文化とは 12冊目

最近の子はみんな呪術師。
推定少女」 / 桜庭一樹

5/19
 小松和彦「日本の呪い」を読み返す。
 「七瀬の祓い」と呼ばれた天皇の穢れを取り除く儀式では、撫物(依り代やヒトガタみたいなもんか)に穢れを吸い取らせ、それを隣国の山城や近江の川瀬に捨てたという。当然これらの地域は穢れの溜まる汚れた地域とされた。
 という部分をよんで三津田信三の「魅物の如く憑くもの」を思い出す。まぁ、穢れは外部からやってくるもので、それを外部に流して返せば、もちろんその外部も穢れている場所にはなるわけだ。くる時は目には見えず、返すときは目に見えるものとなって出て行くってのからして、返すときの方が凝縮されててやばい感じはするがなぁ。しかしまぁこの辺のことについても後々「見えないもの」を「見えるもの」にすることについてって感じで延べているので興味があったら読んでみるとよい。

って感じの日記が出てきた。誰に語りかけているのかは不明。
そしてまたでてきた。以下。

というわけで「日本の呪い / 小松和彦」なんぞをつらつらと読む初春の頃。

 著者が岐阜県にある千代保稲荷神社を訪れた際に目にした「丑の刻参り」に使われた藁人形や釘で打ち付けられた写真。また、知床の原生林伐採に反対するアイヌ人グループが執り行った「ケウタンケの儀式」など、現代に生きる「呪い」を紹介するちょいと刺激の強い導入部。そして、「呪い」を恐れる人間の心性に触れ、 ではその「呪い」が生み出してきた文化とは、日本の文化史において「呪い」とはいかなる位置にあったのかを追求していく。というのが本書狙いのようだ。
 本書は以下の四章からなる。著者いわく「どこから読んでも内容が分かるようにしたので、興味のある章から読み進めてかまわない」とのこと、まぁ普通に順番に読んだけど。

第一章 蘇る「呪い」の世界

 で、いきなり出てくるのが高知県香美郡物部村の「いざなぎ流」。というか一章は物部村の「いざなぎ流」と「犬神憑き」の信仰を通して、実際に「呪い」の生きる世界を体験してみようって感じである。京極夏彦の「姑獲鳥の夏」で、主人公の京極堂が使用していたいざなぎ流祭文「不動明王生霊返し」が出てきたりもしているし、伝奇小説やら民俗学ネタの小説が好きな人には有名な村だろう。実際の祭文や、写真資料なんかも載っているので、なにかの小説なんかで読んで気になっている人は読んでみるとよいかも。

第二章 なぜ、人は「呪い」を恐れるのか

 しかし、この多くはでっち上げの可能性が高いとし、その裏に真実味あふれた虚構を作り上げる「呪いのスペシャリスト」がいたとしている。彼らは事件を認知し様々なパフォーマンスをもって、そこに「呪い」があるという理由を「説明」するのだ。その「呪いのスペシャリスト」というのが古来中国から伝わったとされる技法を用いる「呪禁師」であり、かの有名な「陰陽師」である。

読書メーターによるとこれ読んだのが3/22だそうな。
そんで感想書こうとしてなんか纏まらず無駄に長くなり途中でぶっちぎれているという。書けるところから書いていこうとしたのだろう。第二章の「しかし、」の前になんかしらの文章が来るはずだが今となっては闇の中。なんか面白かったので引っ張り出してきたわけだが面白いのは自分だけだろう。でもやっぱ日記は自分で書いて自分で読むもんだなぁ。なんて思った寂しい夏の夜。
扇風機で観葉植物に風を送って優しさをアピールする俺。

ああちなみに、第三章でちょいと触れられる「呪禁師」対「陰陽師」の話なんかは面白かったのだがその辺触れる前に力尽きたもよう。

新芽

 暖かくなり、なんだかんだで真冬でも昼間は室温15度ぐらいある自室にいる観葉植物たちもそんなもんで騙されたりはしていなかったようで、近頃ニョキニョキと新芽を伸ばしている。というかこんなに成長するものだったのか…。メモリアルカルチャーでゼリー漬けにしていたらあっさり死に掛けて面倒くさいけれど助けてやってハイドロに植え替えたアスパラガスナナスがニョッキニョッキと新芽を伸ばすなんて誰が想像しただろうか!
 ていうかこれ育つんだ!
 って思った。そりゃそうか生きてるわけだし。
 しかし、今改めてみると、メモリアルカルチャーも綺麗だなぁ。でも植物を植えるのには向いていない…。ホームセンターで見かけた、「ガラスの鉢の中にメモリアルカルチャー用のゼリーを敷いてその上に観葉植物を植えた苔玉を置く」ってのをやってみようかなどと検討中の観葉植物を愛でる会一人会員2年目の「アジアンタムの葉先のチリチリが止められない人」こと毛の生え揃わない素人でした。
 パキラの新芽↓

 テーブルヤシの新芽↓

 アスパラガスナナスの新芽↓

 ソレイロリア 上:3/28 下:5/19 


写真じゃ分かりづらいけれど、ボッサボッサになってしまいました。
 

青猫屋

青猫屋

青猫屋

 花粉症が本格化してきてなんだかもうよく分からない理不尽な苦しみを味わっていて
ていうかていうかていうか、電車の中でくしゃみをして鼻かんでるのって俺だけなんだけど花粉症の人って少ないの?なんだかどいつもこいつも花粉症だ花粉症だ言ってマスクしたり目薬さしたりしてるけれど一日ポケットテッィシュ3つ消費して、部屋にある箱ティッシュを5日で1箱消費してるの?嘘じゃないの?おまえら花粉症だ花粉症だって言いたいだけちゃうんかと。初詣にバレンタインに花粉症とか一緒にしてはしゃぎたいだけちゃうんかと。イベントじゃねーんだぞくそが。そう思って毎日悲嘆にくれて酒を煽り、たとえば1本398円の安ワインを深夜川沿いを散歩しながらガブガブ煽りニヤニヤ笑いながら横向きにカニ走りしつつ草むらに小便をぶちまけよく分からない自作の歌(「だめだ〜もう死ぬ〜愛してる〜」とかそんなん)を口ずさみながら川の流れに逆らって小便を思いっきり噴射し、顔を真っ赤にして限界まで力んで「この川を逆流させてやる!」とか思いながらまた小便を噴射したりしている毎日ですよ。最低だなオイ。
 でもね、最近ね、すごい暖かい日が続いたじゃないですか。20度超えるような。そしたらね、目がね、開かなくなって。痒くて。久しぶりに目に来たわけよ。昔は、10年ぐらい前は、あまりの痒さに目を掻き毟って、なんだベロンってめくれたりしたもんよ。目の中の半透明の何かが。薄い膜みたいなのが。視界が雲ってよく見えなくなってたよ。失明するかと思った。
 で、だからなんなのかというと、絶えられなくなって出先の薬局で花粉症用の目薬を買ってその場で使用したら嘘のように痒みが消えて感激したと。ただそれだけのお話で、ただそれが言いたいだけの為に自らの恥をさらしたわけです。

 「青猫屋」は代々人形作りを生業としてきた。しかしそれは表向きの姿であり、裏では「歌瘤師」といわれる「歌の瘤を抜く」ことを生業としてきた。この町の人々は誰もが歌を歌う。その歌にはメロディーはなく、言葉だけがあるのみで、歌うものによってどんな曲調にもなる。怒りを込めたり、ぞっとするほど優しく歌ったり。そんな歌を町の人々は「歌ぶり」と呼ぶ。そんじょそこらの歌とは違うのだという自負と、本当は歌の「ふり」をした歌ではないものなのかもしれないとう懸念をこめて。「瘤」とはその歌の「魂」でもあり、意図的か意図的でないかにかかわらず誰かを傷つけてしまうもの。歌によって傷つけられた被害者は青猫屋に人形の依頼をするように見せかけてこっそりと「瘤抜き」の依頼に来る。「瘤抜き」とは歌を殺すこと。加害者にとっても被害者にとってもそれは名誉なことではないのだ。
 ある日青猫屋に一人の老人名前忘れた町のお屋敷に住むえらいっぽい爺さんがやってくる。その老人の依頼は48年ぐらい前に先代の青猫屋に依頼したい「歌ぶり対決」の判定の結果だった
 とかなんとかいまさら唐突に書いてみたところで情けないので終わり。
 というかそれ以上にこの話幻想的過ぎて意味が分からなくて面白い。面白いけど説明ができない。頭おかしいんじゃねーのとしか。あれだ、根元敬の著書で見られる、完全に逝っちゃった系の人の「電波文」がどうにも真似しきれない、真似出来ないのではなくて真似しきれない、似たようなものは出来るけれど常人が書いたものでは隠し切れない理性がどうしても滲み出てしまって真似ししきれない。そういうなにか説明できない狂った感じが出ている。発想が。だからこそすばらしいと思うんだけどどうかなぁ。そうでもなくて意外とありきたりなんじゃないかなぁと思わせるまともさも兼ね備えていてやっぱりいまいち「頭おかしいんじゃねぇぇの!?」と言い切るには自信がない。

 オチは昨年10月頃うちにやってきた犬の写真で。
 ノロケですけどなにか?

「ぼくと、ぼくらの夏」 10冊目

新装版 ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)

新装版 ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)

 高校二年生の夏休み、主人公戸川春一は刑事である父から同級生岩沢則子が自殺したことを聞かされる。特に印象にも残っていない同級生の死は、その時も春一なにかしらの印象を与えることはなかった。その日の午後、町で偶然この物語のヒロイン酒井麻子と出会い岩沢則子の死を伝える。麻子は岩沢則子の中学時代の友人であり、彼女がなぜ自殺をしたのかを知りたいという。そうして二人は岩沢則子の自殺について調査を始める。彼女はなぜ自殺したのか、もしくはほんとに自殺なのか?

 調布の深大寺近くのお屋敷に、刑事の父と二人暮らしの主人公。毎日食事を作り、家の掃除をし、女性によくモテ、タバコを吸い、諦観的で「感情がないような」彼は洒落てひねくれた言い回しで周囲の人たちをあしらう。
 府中のヤクザの娘、ヒロイン酒井麻子は当然美人で、父親の職業故周囲に気を使い人を遠ざけていた。たがいざ二人で行動を共にするとヒステリックで良く泣く、そのくせ主人公への好意や嫉妬は隠し切れないまさにツンデレ
 この二人を軸に、妻に逃げられたお屋敷の跡継ぎでやる気があるんだかないんだかわからない刑事の父。美人の担任。女生徒に人気のエロそうな体育教師、建設会社を持ち都議会議員の学園理知長と、わかりやすいキャラを、十分すぎるぐらいデデンと贅沢に配置。その他脇役も光ってます。

 青春ミステリー。とても好きなジャンルです。20年前の作品ということもあって、時代を感じさせる設定に使い古されたキャラクターがこれでもかと登場するが鮮度はピチピチ、色あせない。
 はじめは岩沢則子になんの興味もなかった主人公だが、調査を進めることによって浮かび上がってきた「周囲の評価とは違う」岩崎則子を知ることによって、「人には人の人生がある」という当たり前のことに気づいていく。それはほかの登場人物にもいえることで、この短い320ページの中で、主人公が知らなかった彼らの人生が次々と見えてくるところはすばらしい。世界がどんどん広くなっていくようで、閉じこもっていれば安心だろうけど、広い世界。それは表紙のイメージにぴったりだった。

 解説でヒロイン酒井麻子がツンデレキャラであるということについて言及されていたのには笑った。ま、誰が読んでそう思うよなぁとw

嫉妬しているなんて、死んでも認めたくない。「帰らないで」と素直に告げるには、強すぎる自意識が邪魔をする。(中略)意地と甘えとプライドのせいで口は動かないのに、体が勝手に動く。
なんて可愛らしい。

そう、なんて可愛らしい!